アンバー地区の朝市は、前触れもなく時間の混沌へと溶け落ちた。ついさっきまで、エララは香辛料の匂い漂う屋台の間をカシアンと並んで歩いていたのに、次の瞬間、空気そのものが裂けた――彼女が盗んだ未来が、水面に浮く油膜のようにちらつきながら現実へ滲み出してきたのだ。女が悲鳴を上げた。子どもの笑い声が、同時に三方向から響いたからだ。商人の荷車は、無傷の姿と粉々に砕けた姿のあいだを何度も何度も瞬き、木が割れる乾いた音が、つっかえるような輪になって繰り返された。そのすべてを貫いて、借りた一秒一秒が可能性から抜け出し、いまこの瞬間に自らを晒していく。密かに抱えてきた負債が、周囲の誰の目にもわかる形で叫び声を上げた。膝が崩れた。反響が、彼女の支払いを回収しに来ている。そしてアンバー地区が利息を払わされていた。
シナモンとカルダモンを売り込んでいた香辛料商たちの前で、空気が、どこかおかしくなった。エララは思い出す――焦げたシナモンの匂いを。どこかで。いつかで。別の時間で。彼女がその数分を奪い、使い、いまや肉と骨で複利をつけて返さねばならないせいで、決して存在しないはずになった未来。匂いは拳のように彼女を殴った。
「何が起きてるんだ?」露天の男がエプロンを掴み、屋台があったはずの場所を見つめていた。そこにある場所を。あるはずの場所を。状態をまたいでちらつく場所を。
「空気が――喋ってる!」
エララ自身の声が、三秒先から彼に答えた。まだ口にしていない言葉が、無から転がり出る。「下がって。みんな、――から離れて!」
「――中心から」いまの彼女の声が続きを言い、重なり合った音が頭蓋を脈打つように痛ませた。
カシアンの手が彼女の肘を掴んだ。「俺といろ、エララ」
答えられなかった。時間の歪みは、彼女のいる位置から水面に石を落としたように外へ広がっていく――ただし、石は彼女で、波紋は、代価を要求する盗まれた時間だった。男の顔が、一息のあいだに若さと老いを循環した。女の買い物かごは、存在したりしなかったり、そこにあったりなかったりし、内側の野菜は、腐ったり腐らなかったりを途切れ途切れに繰り返しながら悲鳴を上げた。
「私がやった」喉を擦り切るように言葉がこぼれた。「私が奪った一瞬一瞬が、全部戻ってきて――」
「俺に集中しろ」カシアンの握りが強くなる。「俺を見ろ」
できない。彼らの周囲に雪崩れ込む幽かな像が、視界に、心に、そして明日へ手を伸ばして他人のものを盗んだ彼女の一部に、引きずるように絡みついた。見えた。見覚えのない寝台で老い、死にかけている自分。見えた。空の玉座に戴冠しているカシアン――その顔は、勝利ではない何かで虚ろだった。見えた。アンバー地区が塵へ崩れ、また築かれ、そして再び崩れていく光景。どの幻も領収書だった。記録だった。足元の石畳は、現在と盗んだ未来のあいだでちらつき、あらゆる一秒の重みが、骨を押し潰すように彼女へとのしかかった。
子どもの笑い声が、同時にあらゆる場所からこだました。エララの胃が跳ね上がる。あの音を、彼女は知っていた――知っているはずで、知っていて、そしていまも知っている。三つの別々の瞬間にまたがって、それらがひとつの耐え難い「いま」へと押し潰される中で。時間の反響が未来を現在へ引きずり込み、彼女に、自分の盗みが何を代償にしたのかを目撃させた。
群衆はパニックに陥っていた。人々は四方へ走り、歪みが網にからめ取ると、消えたり現れたりする者もいた。男の腕は、壊れた状態と元通りの状態のあいだでちらついた。女の悲鳴は自分自身へと巻き戻り、音が自分の反響へ流れ込んで、やがて恐怖の合唱になった。
「動け!」カシアンが、逃げ惑う市民に叫んだ。「広場を空けろ! 外周の通りへ!」
その声は、命令に慣れた者の権威をもって混乱を切り裂いた。群衆の一部は従い、地区の縁へ向かって流れていく。だが別の者たちは時間の歪みに捕らわれたままで、未来と過去が滲み合い、エララの目が痛むほどだった。彼女は反響へ手を伸ばし、それを、本来あるべき自分の内側へ引き戻そうとした。稲妻が背骨を駆け上がる。視界が二重に、三重になり、市場を見せた――かつてそうだった姿、これからそうなる姿、いまそうである姿。三つの現実が、光の台の上の透明フィルムのように重なり合う。口の中に銅の味が満ちた。
「エララ!」遠くからカシアンの声がした。「エララ、逆らうな――」
だが、逆らうことしか彼女は知らなかった。アーカイブの粛清を生き延びるために戦った。能力が最初に顕れたとき、それを制するために戦った。カシアンを三度の暗殺未遂から生かしておくために戦った。降伏の仕方など知らない。反響は膨れ上がった。そしてエララは、時間の幽霊に映った自分の顔を見る――年老いて、すり減り、借りものの時間で虚ろになった目をしている。幻は空中に三拍の鼓動ぶん留まり、それから雑音へ溶けた。
*ああなるんだ*、と彼女は思った。*もう、あれが私だ。*
市場の広場が傾く。脚が力を失った。
石畳に倒れ込む前に、カシアンが彼女を受け止めた。彼の手が彼女の腕をつかみ、そこで感じ取ったものに、彼の身体がこわばるのが分かった。薄さ。骨が皮膚のすぐ下にあるような感触。彼が見ていないあいだに、何十年もの歳月が彼女の肉へ刻み込まれていたこと。
「だめ――」言いかけたが、声が言うことを聞かなかった。
「大丈夫だ。俺がいる」彼はもう動いていて、彼女を半ば抱えたまま、戸口へ向かった。「俺がいる。逆らうな――過ぎ去るのを待て」
「みんな、見てる」言葉は途切れ途切れにこぼれた。「私が何なのか。私が何をしたのか」
「見せておけ」
時間の歪みが彼女の心へ爪を立て、さらに多くの未来を現在へ引きずり込む。カシアンの亡骸の上に立つ自分が見えた。別の自分が、代わりに玉座へ座っているのが見えた。三つ目は、玉座が二人を丸ごと呑み込み、二人の意識が、かつて原初の神々を食い尽くした古い飢えを養うのが見えた。どの幻影も、代償を要求してきた。
カシアンの肩が扉にぶつかり、無理やりこじ開けた。彼は彼女を引きずり込み、広場の外へ、時間の残響がささやきへと薄れていく狭い奥まった場所へ連れていった。ざらついた石が背中に押し当たる。彼の旅装の外套が混乱を遮り、腕が庇のような囲いをつくって、奪われた未来が届かないようにしてくれていた。彼女は震えていた。いつから震えはじめたのだろう?
「残響が――」彼女はどうにか口にした。
「消えていく。」彼の声は低く、切迫していた。「もう薄れている。大丈夫だ。」
大丈夫なはずがない。二度と安全などありえない。借りたものの勘定が回ってきて、支払うために残っているのは、自分自身だけだった。
出入り口には埃と古い石の匂いがした。エララはそこにもたれ、背骨にかかる確かな圧に感謝した。カシアンは近くにいた――近すぎて、なのに近さが足りない――崩れ落ちるとでも思っているように、手をまだ彼女の肩に置いたまま。たぶん、その予想は正しい。彼女自身、足が信用できなかった。
「俺を見て。」親指がこめかみをかすめ、彼の視線が生え際の灰色に引っかかるのが見えた。顎がきゅっと固くなるのも。 「どれだけ長いあいだ、これを俺に隠してた?」
「隠してたわけじゃない。」自分の声に滲む疲労が意外だった。「大したことにならないと、思ってただけ。」
「ならない。」彼の指が、ためらいもなく目元に増えた新しい皺をなぞった。「お前が思ってる意味では。」
信じたかった。外套越しに滲むぬくもり、手のひらの一定の圧、衰えが一目でわかるのに一歩も引かなかったこと――そのすべてが、彼女が名づけるのを恐れている何かを示していた。だがカシアンはThe Claimantだ。玉座を望んでいる。そして彼女は、それを手に入れる助けになる道具だ。
「私がちゃんと使える状態でいてほしいだけ。」エララは言った。「全部それでしょ。」
何かが彼の顔をかすめた。「そう思ってるのか?」
「あなたは一生、相手が聞きたいことを言う訓練をしてきたんだと思う。」声が思ったより硬く出た。「それがとても上手なんだとも。」
「エララ。」彼は、何かを支払うみたいに彼女の名を言った。「俺は王子に嘘をついた。聖職者にも嘘をついた。神の軍勢の残された欠片の前に立って、奴らが信じたがっていることを、そのまま告げたこともある。」
彼の手が滑り落ち、彼女の手を捕まえて、二人の間へ持ち上げた。「お前には嘘をつかない。」
彼の手の中で、自分の手がおかしく見えた。細すぎる。老いすぎている。最後に借りたときに負った内側の損傷のせいで、関節は腫れていた。三か月前、彼女は二十七歳だった。今の自分にどんな数字を与えればいいのか、わからない。
「あなたの探し求めてるもの。」彼女は言った。「玉座。あなたがずっと目指してきた全部――」
「お前がそこにいて、それを見ることができないなら、何の意味もない。」最後の一語で、彼の声がひび割れた。
エララは彼を見つめた。彼がひび割れるなんて、なかった。知り合ってからの何か月のあいだ、一度も。カシアンは統制と計算で、滑らかな言葉と、もっと滑らかな退き際の人間だ。ひび割れたりしない。
「嘘なんかついていない」彼はもう一度言った。「でも、これ以上どう言えばいいのか分からない。どんな言葉なら、お前を納得させられるのか分からないんだ」彼の親指が、彼女の掌の線をなぞった――以前はそこになかった線を。「お前は道具じゃない。目的のための手段でもない。お前は――」
彼は言葉を切った。彼女は待った。
「この街で、俺が何者かを知っているのはお前だけだ」ようやく彼は言った。「それでもお前はここにいる。それが、俺にとって何の意味もないと思うのか?」
時の残響は、いまや完全に消え去っていた。広場から聞こえる叫び声――何が起きたのか理解しようとしている人々の混乱が、彼女の耳に届く。だがこの狭い戸口のくぼみで、カシアンが彼女の両手を包み、彼の外套が冷気を遮っているあいだ、彼女は何かを感じていた。何か月も感じていなかったものを。安全だ、と。選ばれている、と。自分の生き延びることだけよりも大きな何かに、属しているみたいに。
「私、死にかけてる」彼女は言った。「あなたも知ってるでしょう。借りるたびに、私は歳を取る。借りの返済期限が来るのに、払いきれるだけの年数が残ってない」
彼の握りが強まった。「なら、別の方法を探す」
「別の方法なんて、ないかもしれない」
「必ずある」彼の確信は揺るぎなかった。「座る者を皆殺しにする玉座のために何年も戦ってきたのは、お前を、別の通貨でも帳尻を合わせられる台帳に奪われるためじゃない」
彼女は瞬いた。「……何?」
だが彼はもう首を振っていた。「あとだ。お前がもっと強くなってから。残響が完全に過ぎ去ってから」彼は彼女の片手を持ち上げ、その指の関節に唇を押し当てた。古風で、宮廷めいた所作。いま周囲で噴き上がった混乱とは、あまりに不釣り合いだった。「いまは、俺を信じてほしい。できるか?」
分からなかった。したかった。その「したい」が、残響と同じくらい彼女を怯えさせた。
「……やってみる」彼女は言った。
彼の笑みは小さく、疲れていて、それでも本物だった。「今はそれでいい」
広場の叫び声が薄れていくまで、二人は戸口に留まった。エララは、時の残響の最後の名残が、何もないところへ溶けていくのを見つめた。彼女が盗んだ幽かな未来が一度、二度とちらつき、それから消えた――残ったのは現在の一瞬だけ。鋭く、冷たく、そしてひどくありふれている。
市場はめちゃくちゃだった。荷車は横倒しになり、屋台は崩れ、人々は石畳に座り込んで虚ろなものを見つめていた。目にしたものを処理しようとしているのだ。彼女には彼らの顔に浮かぶ恐怖が見えた。混乱が。何が起きたのか分かっていない。けれど、覚えてはいるだろう。引き起こしたThe Archivistのことを。彼らの通りへ時間を血のように流し込んだ女のことを。
「動くぞ」カシアンが低く言った。「俺たちが答えられない質問を、誰かがする気になる前に」
彼が正しいのは分かっていた。彼女も分かっていた。それでも足が言うことをきかなかった。
「少しだけ、時間をちょうだい」
「お前には“少し”がない」声は優しいが、譲らなかった。「台帳はまだ集め続けている。ここで費やす一秒ごとに、お前は別のどこかから一秒を借りてる」
彼女は鋭く彼を見た。「どうして、それを知ってるの?」
「だって、ずっとお前を見てきたからだ」彼はひるまずに彼女の視線を受け止めた。「代償がどれほどのものかも、見てきた。お前がその力を使うたびに、剥がれ落ちていく年数が見えるんだ」彼の顎がきゅっと強ばった。「気づいているってことを、どう伝えればいいのか探してきた。それが大事だってことも。お前が大事だってことも」
彼女は喉が塞がった。
「さあ」彼は彼女を引き起こし、ぐらついたときには支えた。「連合がアーカイブ地区を封鎖する前に、プライム・ヴェラムへ行かないと。歩けるか?」
歩ける。歩かなければならない。ここに座り込んだままでいたら、台帳が彼女の借りを残りのぶんまで、ひと欠片ずつ集めていって、何も残らなくなるだけだ。
「歩ける」
広場を抜けていくあいだ、彼は彼女の肩に腕を回したままだった。残っていたわずかな人々は大きく距離を取った。目が、あまりにも分かっている目だった。彼女が何者かを見たのだ。幽かな未来が現在へと滲み出すのを見たのだ。彼女が引き起こした時間の損傷を。彼女の負債は、もう私事ではなかった。それは彼らの顔の恐怖に、市場の破壊に、彼女の髪に走る灰色の筋に、顔を刻む線に書きつけられていた。
隠せると思っていた。どうにかできると思っていた。管理して、誰にも気づかれない程度の小さな分割払いで返していけると。間違っていた。今日、利息を払ったのはアンバー地区だった。だが元本はまだ残っている。そしてエララには、自分に支払いに使える年があとどれだけ残っているのか、見当もつかなかった。
広場から離れるにつれて通りは狭くなっていった。カシアンは彼女を引き寄せ、腰に回した腕を確かな重みとして添えたまま歩く。彼の体に走る緊張が、攻撃を予期する男の巻かれたばねのような身構えが、触れずとも分かった。連合の最後通告が刃のように頭上にぶら下がっている。三日以内に彼のクレイムを放棄しなければ、連合軍の総力と対峙することになる。三日以内に、玉座が座った者すべてを食い尽くすという証拠をプライム・ヴェラムで見つけなければならない。三日以内に、彼らを破滅させる前に同盟を裂かなければならない。
「覚えてるかな?」彼女は尋ねた。「広場にいた人たち。見たものを覚えてる?」
「一部はな」カシアンは壊れた荷車を避けるよう彼女を導いた。「時間の残響は痕跡を残すが、心はそれを抱え込めない。恐怖は覚えてる。混乱も。お前が中心にいたことは覚えてるかもしれない」
「でも、細部までは」
「はっきりとはな」彼は彼女を見下ろした。「騒ぎを起こした女として残る。具体はぼやける」
慰めにはならない。どのみち彼女は危険な存在として知られる。
角を曲がると、アーカイブ地区が正面に立ち上がった。朝の空を背に、塔が黒い輪郭になっている。プライム・ヴェラムは中央の尖塔に収められていて、クレイマントでさえ招きなしでは破れない結界の奥にある。だがエララはクレイマントではない。彼女はThe Archivistだ。そしてThe Archivistには、独自の入り方があった。
「見張りがいる」カシアンが言った。「連合は監視役を配置してるはずだ」
「分かってる」
「借りられるか? 必要なら、見つからずに通り抜けるために」
その問いは、ふたりのあいだに宙づりのまま残った。エララはその重みを感じた。そこに含まれる意味を。カシアンは、彼女にもっと背負えと言っているのだ。さらに自分を老いさせろと。通り抜けの代金を、自分自身の未来の欠片で支払えと。
「できる」エララは言った。「でも、あとどれだけ持っていかれるのか分からない」
カシアンの腕が彼女を抱く力を強めた。「なら、別のやり方を探す」
「別のやり方なんて、ないかもしれない」
「いつだって別のやり方はある」彼は繰り返し、彼女の耳に先ほどの言葉の反響がよみがえった。「見つけるだけだ」
言い返したかった。彼の楽観は、彼女には贅沢すぎると突きつけたかった。借りるたびに自分が縁へと押しやられていくことを、広場の反響が無視できない警告だったことを、突きつけたかった。けれど彼は、彼女を救う価値のあるものを見る目で彼女を見ていた。彼女の年月が、自分の王座よりも大切だと言わんばかりに。――そして彼女は、これをひとりで抱え続けることに、もう疲れきっていた。
「行こう」エララは言った。
ふたりは並んでアーカイヴへ向かった。口にしなかったものの重さが、第三の存在のようにふたりへとのしかかる。背後では、アンバー地区がゆっくりと元の形を取り戻していった。粉々になった荷車。崩れ落ちた露店。時間の交差砲火に巻きこまれた人々。だが、元に戻らないものもある。エララは、自分が負っているものが骨の奥へ沈みこんでいくのを感じた。重く、忍耐強く。いつまでも待つだろう。取り立てるだろう。そして支払いの時が来たら、彼女は払う。どんな代償であれ。
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第13章:肉で支払われる利息 - 時を借りた少女
アンバー地区の朝市は、前触れもなく時間の混沌へと溶け落ちた。ついさっきまで、エララは香辛料の匂い漂う屋台の間をカシアンと並んで歩いていたのに、次の瞬間、空気そのものが裂けた――彼女が盗んだ未来が、水面に浮く油膜のようにちらつきながら現実へ滲み出してきたのだ。女が悲鳴を上げた。子どもの笑い声が、同時に三方向から響いたからだ。商人の荷車は、無傷の姿と粉々に砕けた姿のあいだを何度も何度も瞬き、木が割れる乾いた音が、つっかえるような輪になって繰り返された。そのすべてを貫いて、借りた一秒一秒が可能性から抜け出し、いまこの瞬間に自らを晒していく。密かに抱えてきた負債が、周囲の誰の目にもわかる形で叫び声を上げた。膝が崩れた。反響が、彼女の支払いを回収しに来ている。そしてアンバー地区が利息を払わされていた。
シナモンとカルダモンを売り込んでいた香辛料商たちの前で、空気が、どこかおかしくなった。エララは思い出す――焦げたシナモンの匂いを。どこかで。いつかで。別の時間で。彼女がその数分を奪い、使い、いまや肉と骨で複利をつけて返さねばならないせいで、決して存在しないはずになった未来。匂いは拳のように彼女を殴った。
「何が起きてるんだ?」露天の男がエプロンを掴み、屋台があったはずの場所を見つめていた。そこにある場所を。あるはずの場所を。状態をまたいでちらつく場所を。
「空気が――喋ってる!」
エララ自身の声が、三秒先から彼に答えた。まだ口にしていない言葉が、無から転がり出る。「下がって。みんな、――から離れて!」
「――中心から」いまの彼女の声が続きを言い、重なり合った音が頭蓋を脈打つように痛ませた。
カシアンの手が彼女の肘を掴んだ。「俺といろ、エララ」
答えられなかった。時間の歪みは、彼女のいる位置から水面に石を落としたように外へ広がっていく――ただし、石は彼女で、波紋は、代価を要求する盗まれた時間だった。男の顔が、一息のあいだに若さと老いを循環した。女の買い物かごは、存在したりしなかったり、そこにあったりなかったりし、内側の野菜は、腐ったり腐らなかったりを途切れ途切れに繰り返しながら悲鳴を上げた。
「私がやった」喉を擦り切るように言葉がこぼれた。「私が奪った一瞬一瞬が、全部戻ってきて――」
「俺に集中しろ」カシアンの握りが強くなる。「俺を見ろ」
できない。彼らの周囲に雪崩れ込む幽かな像が、視界に、心に、そして明日へ手を伸ばして他人のものを盗んだ彼女の一部に、引きずるように絡みついた。見えた。見覚えのない寝台で老い、死にかけている自分。見えた。空の玉座に戴冠しているカシアン――その顔は、勝利ではない何かで虚ろだった。見えた。アンバー地区が塵へ崩れ、また築かれ、そして再び崩れていく光景。どの幻も領収書だった。記録だった。足元の石畳は、現在と盗んだ未来のあいだでちらつき、あらゆる一秒の重みが、骨を押し潰すように彼女へとのしかかった。
子どもの笑い声が、同時にあらゆる場所からこだました。エララの胃が跳ね上がる。あの音を、彼女は知っていた――知っているはずで、知っていて、そしていまも知っている。三つの別々の瞬間にまたがって、それらがひとつの耐え難い「いま」へと押し潰される中で。時間の反響が未来を現在へ引きずり込み、彼女に、自分の盗みが何を代償にしたのかを目撃させた。
群衆はパニックに陥っていた。人々は四方へ走り、歪みが網にからめ取ると、消えたり現れたりする者もいた。男の腕は、壊れた状態と元通りの状態のあいだでちらついた。女の悲鳴は自分自身へと巻き戻り、音が自分の反響へ流れ込んで、やがて恐怖の合唱になった。
「動け!」カシアンが、逃げ惑う市民に叫んだ。「広場を空けろ! 外周の通りへ!」
その声は、命令に慣れた者の権威をもって混乱を切り裂いた。群衆の一部は従い、地区の縁へ向かって流れていく。だが別の者たちは時間の歪みに捕らわれたままで、未来と過去が滲み合い、エララの目が痛むほどだった。彼女は反響へ手を伸ばし、それを、本来あるべき自分の内側へ引き戻そうとした。稲妻が背骨を駆け上がる。視界が二重に、三重になり、市場を見せた――かつてそうだった姿、これからそうなる姿、いまそうである姿。三つの現実が、光の台の上の透明フィルムのように重なり合う。口の中に銅の味が満ちた。
「エララ!」遠くからカシアンの声がした。「エララ、逆らうな――」
だが、逆らうことしか彼女は知らなかった。アーカイブの粛清を生き延びるために戦った。能力が最初に顕れたとき、それを制するために戦った。カシアンを三度の暗殺未遂から生かしておくために戦った。降伏の仕方など知らない。反響は膨れ上がった。そしてエララは...