聖なる文書庫は、訪問者を歓迎しなかった。迎え入れるのではなく、耐え忍ぶのだ――大聖堂が観光客にそうするように。そこにいることは承知している。触れられることを疎んじている。そして彼らが立ち去り、ふたたび聖なる静寂へ戻れる瞬間を待っている。エララは外郭の部屋を、神々の家に忍び込んだ盗人のように進んだ。彼女の不安定な力は知覚の縁で明滅し、彼女自身の残響を生み出す――本人より先に到着し、去ったあともなお居残る影を。迷宮の中心で、プライム・ヴェラムが待っていた。そしてそれは、王座をめぐる戦に関して、彼女が知っていると思い込んできたすべてを崩壊させる真実を告げようとしていた。
彼女の足音は、踏み出す三秒前に反響した。
彼女は凍りついた。
自分の歩みの幽かな音が、前方から耳に届いた。琥珀が蠅を閉じ込めるように瞬間を閉じ込める壁に跳ね返りながら。今回、文書庫の回廊は石でも金属でもない。固化した秒でできていた――圧縮された分が床となり、神の歴史が積み重なった重みから築かれた迷宮。
「三秒先。」彼女は祈りのように言葉を吐いた。「三秒後ろ。私は、自分自身の人生の中を歩く幽霊だ。」
その言葉が空中にぶら下がり、そして、まだ起きていない瞬間から同じ言葉が繰り返された。彼女が口にするより先に到着する、彼女の声。
時間の残響は悪化していた。ストーンハート・ヴォルトから借りた一秒一秒が彼女の内側にひびを入れ、今やそのひびが周囲の世界へ滲み出している。彼女は前へ進んだ。
回廊は、決して訪れないかもしれない未来の反射を彼女に見せた――年老いた自分、若い自分、ときには両方が同時にそこにいる自分。ある断片では、彼女は王座の基壇の前に立ち、手から黒い何かを滴らせていた。別の断片では、祭壇の上に身動きひとつせず横たわり、まだ生きていないはずの数十年が顔に刻まれていた。像は彼女の平衡感覚を奪い、曲がり角の一つ一つを疑わせた。
結界が、鼓動のように彼女の意識へ脈打った。神性の加護が建築そのものへ織り込まれている。それは彼女を感知した――定命の者、侵入者、瞬間の盗人。奥へ進むほど脈は速まり、こめかみを押しつけられるように感じた。目の奥に住みついた頭痛。
もっと急がなければ。
エララは自分の力へ手を伸ばした。すでに多くを代償にしてきた禁じられた能力。借りるのは、ほんの数秒。結界が警鐘を鳴らす前に、その注意の外へ滑り抜けるだけの時間。ツケはあとで払うことになる――いつもそうだ――だが、ここで失敗すれば存在しないかもしれない未来の「あとで」など、問題ではなかった。
彼女は引いた。
時間がたわんだ。
結界の脈動が遅くなり、引き伸ばされ、蜜のように粘つく波となって、彼女が避けて進めるものへ変わった。身体が抗議の叫びを上げた――関節は軋み、皮膚は、年月が奔流となって駆け抜ける幻の感覚に粟立つ――それでも彼女は裂け目を抜け、結界が存在を登録するより前に反対側へ出た。
回廊は、広大な広間へと開けた。
プライム・ヴェラムはその中心に鎮座していたが、彼女の想像とはまるで違っていた。巻物ではない。本でもない。結晶化した時間の巨大な板――その表面は言葉で覆われ、無限の周期で書かれては書き替えられ、文章が透明な媒質の上を水のように流れていく。広間そのものが息を潜めているようだった。音はない。動きもない。空気でさえ重く感じられ、この空間が「変化」という概念そのものを拒んでいるかのようだった。
エララは肋骨の内側で心臓が暴れるのを感じながら近づいた。「見せて」沈黙の中で声がひび割れた。「隠しているものを見せて」
表面の文字が止まった。それから、兵士が隊列を組み直すように、文字が並び替わりはじめた。ヴェラムが彼女に応じている。彼女の時間的な性質――借り物の時間、盗まれた瞬間――を認識したのだ。そこに、同族めいた腐敗を見て取った。
*おまえは負債の刻印を携えている。*
彼女は身を強張らせた。「自分が何を背負っているかは分かってる」両手が体の脇で拳を結んだ。「玉座を見せて。神々に何が起きたのかを見せて」
文字がうねった。一瞬、何も定まらない。だがやがて、一節が浮かび上がった。光を投げない冷たい火で輝き、なのに容赦なく彼女の視界へ焼き付く。
*起源の盟約:神々の一団は玉座を、神的意識の貯蔵庫として鍛え上げた。神々の集合意志を通す器として。しかし、その器には器自身の意志があった。飢えていた。*
読みながら、エララの手が震えた。口の中に銅の味が広がる――いや、銅じゃない。灰だ。焼け落ちた未来の灰。
*最初に座したのは、境界の神コルヴェス。*
「そんな」止める間もなく言葉が漏れた。「神々が――そんな、座ったりするはずが――そんなものに、そんなことができる――」
ヴェラムの文字は容赦なく続いた。
*彼は玉座の力を用いて己の領域を拡大しようとした。玉座は返礼として彼を用いた。三つの周期のうちに、彼の意識は消化された。身体は残った。精神は燃料となった。*
「消化」吐き気がこみ上げ、彼女はその言葉を舌の上で噛んだ。「つまり、食われたってことね」
*二人目は、記憶の女神リリス。*
「何人?」エララの声が上ずり、ひび割れた。「何人が、そうやって――」
*彼女は飢えを封じ込められると信じた。彼女はそれに、過去を、現在を、未来を与えた。それでも足りなかった。*
「答えて!」彼女は掌をヴェラムの表面に叩きつけた。「あれは何柱の神を喰らったの?」
*決して足りない。*
文字が並び替わり、冷たい水のように流れていく。
*三柱目。四柱目。五柱目。誰もが口を支配できると信じた。誰もが食事となった。*
エララはよろめいてヴェラムから後ずさった。踵が何もないところに引っかかり、倒れそうになって広間の縁を掴んで体勢を立て直す。壁が彼女の姿を映していた――皺が刻まれ灰色にくすんだ自分の顔、恐怖で見開かれた目。
「玉座を捨てたんじゃない」彼女は声に出して言い、鉛の錘のようにその言葉が骨へ沈んでいくのを感じた。「玉座に喰われたのよ」
*飢えは続く。口は待ち受ける。*
エララは無理やり読み続けた。言葉は今やいっそう速く揺らぎ、まるで羊皮紙が彼女の理解を察して、彼女が逃げ出す前に絵の全体を完成させたがっているかのようだった。
*大いなる沈黙は見捨てたのではない。飢餓だった。最後の神々は玉座を封じ、逃げ去った――それに糧を与えぬために。*
「だから逃げたのね」苦い笑いが喉を擦って漏れた。「偉大なる神々が逃げ出して、残りの私たちを――」
*だが飢えは拒めない。夢を通じ、予言を通じ、継承という概念そのものを通じて手を伸ばす。*
*それは新たなThe Claimantたちを呼び寄せた。力の約束を囁いた。再び喰らう。*
足元で床が傾いたように感じた。エララは羊皮紙の縁を掴み、指先をその表面に押しつける――温かい。肌のように。生きている何かのように温かい。
彼女は手を引っ込めた。
「The Claimantたち」息が短い喘ぎになって途切れ途切れに漏れる。「カシアンも、ほかの人たちも。賞品を奪い合ってるんじゃない。追い立てられてるのよ――」
*口へ。餌食へ。継承戦争は献立だ。玉座は卓を整えた。*
背後で音がした。足音? 違う――反響だ。自分の足音が、自分が踏み出すより先に届いている。力が制御を失って漏れ出し、広間の縁でちらつく時間の亡霊を生み出していた。
出なければ。知らせなければ――
誰に? カシアンに、彼が屠殺のために太らされているのだと告げるのか? 彼が捧げてきたすべて、失ってきたすべてが、捕食者の食欲に奉仕していたのだと告げるのか?
羊皮紙は最後の文を記した。
*The Archivistは負債を負う。The Archivistは時を運ぶ。The Archivistは飢えに千年分の餌を与えうる。*
知っているのだ。借りた瞬間、盗んだ秒を見透かしている。骨の内側に棲みつく時間の腐食を、味わえるのだ。
エララは走った。
広間から逃げ出すと、不安定な力が次々と反響を生み、回廊は重なり合う瞬間の悪夢と化した。過去のエララと未来のエララが視界でちらつき、透けた手で彼女に伸びてくる亡霊となる。結界はいまや警報のように脈動していた――彼女が探知されたのか、正確には彼女の反響が探知されたのだ。アーカイブは、侵入者がその回廊を動いていることを知った。
通り過ぎるたび、壁は百の未来を映した。ある未来では逃げ延びる。別の未来では捕まる。ひとつの未来では、この回廊で崩れ落ち、借り過ぎた瞬間の負債をついに肉体が支払う。どれひとつとして立ち止まって確かめはしなかった。
出口が前方に実体化する――淡い光から彫り出された戸口、アーカイブの時のない空間と外の世界の境界。エララはそこへ身を投げ、抜け出した先で冷たい夜気を吸い込んだ。急に現実へ引き戻されたその冷たさが、肺を焼いた。
頭上で星が巡る。月は地平線の低い位置にぶら下がり、闇を切り裂く銀の鎌のように見えた。エララはアーカイブの石段に膝をつき、喘ぎながら、知ってしまったことの余震で体を震わせた。
そして、彼を見た。
カシアンは石段の下に立っていた。星を散らした空を背に、そのシルエットはくっきりと浮かび上がっている。彼はアーカイブの中へは入っていない――The Claimantである彼が敷居をまたいだ瞬間、あらゆる結界が作動してしまう――だが、ここにいた。待ち続けていた。おそらく何時間も。彼女が中にいるあいだに夜はさらに深まったのに、それでも彼は残っていた。
「何か見つけたな」問いではなかった。
エララはふらつく脚で立ち上がった。真実の重みが胸にのしかかり、物理的な塊のように呼吸のたびに力が要った。彼から逃げたい、知ってしまったことを閉じ込めたままにしておきたい。だが体はそれ以上、動こうとしなかった。
「全部、見つけた」自分の耳に、声が空洞のように響いた。「それに、どれも私たちが思ってたのとは違う」
カシアンは一段目に足をかけた。――そして止まった。彼女に距離が要るとでも感じ取ったみたいに。夜風が彼の黒髪をさらい、顔にかかる。疲れて見えた。人間に見えた。
「なら、一緒に向き合う」彼は言った。
彼女は笑った――ひび割れた音で、そこには少しも可笑しさがなかった。「一緒に? 私たちが何に向き合うのか、あなた分かってるの?」
「話せ」
言うべき言葉が喉に引っかかった。彼に告げれば、彼の希望が死ぬのを見届けなくてはならない。彼に悟らせなくてはならない――この継承戦争で起きたあらゆる死、あらゆる犠牲、あらゆる苦痛の瞬間が、何ひとつ報われなかったと。彼が玉座をめぐる遊戯の駒ではなく、献立表に載せられた一皿にすぎなかったと。
「玉座は、権力の椅子じゃない」ようやく彼女は言葉を無理やり押し出した。「あれは口よ。最初の神々の一団を飲み込んだ。神々は玉座を捨てたんじゃない――玉座に食べられたの。そして今、また腹をすかせてる」
カシアンの表情は変わらなかった。彼は彼女の言葉を、石が雨を吸うみたいに受け止めた――反応も、抵抗もなく。けれど彼の目の奥で何かが動いた。彼女には見えた。理解のひらめき――あるいは、心当たり。
「知ってたのね」非難の言葉は平坦に出た。あまりにも他のすべてが巨大すぎて、そこに注ぐ気力が抜け落ちていた。「少なくとも、疑ってた」
「違っていてほしかった」彼はもう一段、上がった。「玉座が別のものになれると。改められると。制御できると、そう願ってた」
「無理よ」エララは首を振った。髪が顔に落ちかかる。「生きてるのよ、カシアン。ずっと生きてて、The Claimantたちを――餌で獲物をおびき寄せるみたいに、呼んできた」
「なら、玉座は取らない」彼は、世界でいちばん当たり前の解決策みたいに、さらりと言った。「壊す」
「壊せないわ」彼女の両手が、どうしようもなく宙をさまよった。「あれは結晶化した時間でできてる。神性の意識でできてる。ほどけないものの寄せ集め。プライム・ヴェラムには――」
「ヴェラムが何と言おうと関係ない」彼はもう、彼女のすぐ近くまで来ていて、目尻の皺や、顔立ちに刻み込まれた疲労が見えた。彼もまた、自分なりの知の重みを背負っていた。自分なりの疑いを抱えていた。自分が間違っていてほしいという、必死の希望を抱えたまま。「どんなものでもほどける。どんなものでも終わらせられる。道を見つければいいだけだ」
エララは彼を信じたかった。彼の確信がもたらす安らぎに身を沈め、誰かに不可能な真実の重荷を背負わせてしまいたかった。けれど彼女は、闇の中で燃えるように浮かび上がったヴェラムの言葉を見てしまった。その表面の、生きているみたいな温もりを感じてしまった。
「玉座が、わたしを見た」声が囁きに落ちる。「わたしが何者か、わかってる。わたしなら千年分、食べさせられるって言った」
カシアンの動きが止まった。
「なら、そのことが問題になる立場に、おまえが二度とならないようにする」彼の手が彼女の手を探り当てる――温かく、確かで、本物だ。書庫の凍てついた広間の外にもまだ世界があるのだと告げる、一本の綱。「俺がここで待ってたのは、行く場所がなかったからじゃない、エララ。おまえが、一人じゃ抱えきれないものを背負って出てくるって、わかってたからだ」
彼女は重ね合った手を見つめた。彼の握りは固いがきつくはない。束縛ではなく、つながりだけを差し出している。夜気は頬に冷たかったが、彼の掌は彼女の掌に温かかった。その対比が、あの回廊の中で自分がどれほど孤独だったかを、突然、痛いほど思い知らせた。
「The Claimantたち」彼女は言った。「ほかの人たち。自分がどこへ向かってるのか、わかってない」
「そうだ。わかってない」カシアンの親指が、彼女の手の甲を小さく円を描いてなぞる。「それで、俺たちが話しても、信じないやつが出る。競争相手を消そうとしてると思うやつもいる。危険を承知で、その力を選ぶやつもいる」
「そうしたら、死ぬ」
「死ぬ」彼はためらいもなく言った。「でも、俺たちは死なずに済む。もしかしたら――もしかしたら、十分な数を救って、何かを変えられるかもしれない。あれを永久に封じる方法を見つけられるかもしれない。だがそのどれも、おまえが疲労と負債でこの階段に崩れ落ちたら、できなくなる」
彼の言うとおりだと、彼女は悟った。身体が限界だった。借りた時間が支払いを求め、払えるはずのない歳月を取り立てに来ていた。視界の端が揺らぎ、闇が潮のように押し寄せてくる。
「休まないと」その言葉は降伏みたいに感じられた。「癒やさないと」
カシアンは彼女の腕を自分の肩に回させ、体重を支えながら階段を下りていく。「真実は明日も真実だ。玉座はどこにも行かない。俺もだ」
二人は連れ立って夜の中へ歩き出し、書庫の凍てついた広間を背にした。頭上では星々が巡り、定命の者と神々のささやかな騒ぎなど意に介さない。月は空を横切るゆっくりとした旅を続け、出会うどんな闇でも切り裂くと約束する銀の鎌だった。
そして神域の中心 somewhere――時の外にある一つの部屋で、プライム・ヴェラムはその表面に新たな文を記した。生きた目が読むことのない文を。
*The Archivistは知っている。The Claimantは留まる。飢えは待つ。*
*忍耐。*
*喰らう時が来る。*
その文はひと呼吸ののちに薄れ、ヴェラムの無限の表面へと吸いこまれていった。続く沈黙の中で、アーカイブは落ち着きを取りもどす――石が石をこすり、長く息を止めていたあとに吐き出すかのような音を立てて。凍りついた回廊は、すでにそこを歩いた侵入者のことを忘れはじめていた。彼女が残した時間の残響は散り、古布から引き抜かれた糸のようにほどけていく。
人の世では、エララがカシアンの見つけた小さな部屋で浅い眠りに沈み、負った代価を身体が処理していた。こめかみの髪は白くなっていた――借りて使い果たした時間の、消えない印だ。目もとの皺は深くなっている。彼女は飢える玉座の夢を見た。神々がひとり、またひとりと己の心をそれに差し出し、何も残らなくなるまで与えつづけ、最後に残ったのは空洞の神性だけだった。
カシアンは窓辺で見張りを続け、夜明け前の灰色を背にその影が切り取られていた。眠らなかった。眠れなかった。彼女から聞かされたことの重みが胸を押しつぶす。継承に何かおかしな点があるとは疑っていた。だが、狩る側が玉座そのものだとは思いもしなかった。
エララが身じろぎし、薄暗い部屋の向こうから彼を見つけたとき、彼女は彼がどうしても口にできない問いを見て取った。
彼が言葉を発する前に、彼女は首を振った。「止まらない。」疲労でかすれた声だったが、意志は揺るがなかった。「ただ、うそを信じるのをやめるの。」
ログインが必要です
無料章(1〜6)はどなたでもお読みいただけます。残りの章を読むにはログインしてください。アカウント作成は無料です!
⚙️ 読書設定
第17章:待ち受ける口 - 時を借りた少女
聖なる文書庫は、訪問者を歓迎しなかった。迎え入れるのではなく、耐え忍ぶのだ――大聖堂が観光客にそうするように。そこにいることは承知している。触れられることを疎んじている。そして彼らが立ち去り、ふたたび聖なる静寂へ戻れる瞬間を待っている。エララは外郭の部屋を、神々の家に忍び込んだ盗人のように進んだ。彼女の不安定な力は知覚の縁で明滅し、彼女自身の残響を生み出す――本人より先に到着し、去ったあともなお居残る影を。迷宮の中心で、プライム・ヴェラムが待っていた。そしてそれは、王座をめぐる戦に関して、彼女が知っていると思い込んできたすべてを崩壊させる真実を告げようとしていた。
彼女の足音は、踏み出す三秒前に反響した。
彼女は凍りついた。
自分の歩みの幽かな音が、前方から耳に届いた。琥珀が蠅を閉じ込めるように瞬間を閉じ込める壁に跳ね返りながら。今回、文書庫の回廊は石でも金属でもない。固化した秒でできていた――圧縮された分が床となり、神の歴史が積み重なった重みから築かれた迷宮。
「三秒先。」彼女は祈りのように言葉を吐いた。「三秒後ろ。私は、自分自身の人生の中を歩く幽霊だ。」
その言葉が空中にぶら下がり、そして、まだ起きていない瞬間から同じ言葉が繰り返された。彼女が口にするより先に到着する、彼女の声。
時間の残響は悪化していた。ストーンハート・ヴォルトから借りた一秒一秒が彼女の内側にひびを入れ、今やそのひびが周囲の世界へ滲み出している。彼女は前へ進んだ。
回廊は、決して訪れないかもしれない未来の反射を彼女に見せた――年老いた自分、若い自分、ときには両方が同時にそこにいる自分。ある断片では、彼女は王座の基壇の前に立ち、手から黒い何かを滴らせていた。別の断片では、祭壇の上に身動きひとつせず横たわり、まだ生きていないはずの数十年が顔に刻まれていた。像は彼女の平衡感覚を奪い、曲がり角の一つ一つを疑わせた。
結界が、鼓動のように彼女の意識へ脈打った。神性の加護が建築そのものへ織り込まれている。それは彼女を感知した――定命の者、侵入者、瞬間の盗人。奥へ進むほど脈は速まり、こめかみを押しつけられるように感じた。目の奥に住みついた頭痛。
もっと急がなければ。
エララは自分の力へ手を伸ばした。すでに多くを代償にしてきた禁じられた能力。借りるのは、ほんの数秒。結界が警鐘を鳴らす前に、その注意の外へ滑り抜けるだけの時間。ツケはあとで払うことになる――いつもそうだ――だが、ここで失敗すれば存在しないかもしれない未来の「あとで」など、問題ではなかった。
彼女は引いた。
時間がたわんだ。
結界の脈動が遅くなり、引き伸ばされ、蜜のように粘つく波となって、彼女が避けて進めるものへ変わった。身体が抗議の叫びを上げた――関節は軋み、皮膚は、年月が奔流となって駆け抜ける幻の感覚に粟立つ――それでも彼女は裂け目を抜け、結界が存在を登録するより前に反対側へ出た。
回廊は、広大な広間へと開けた。
プライム・ヴェラムはその中心に鎮座していたが、彼女の想像とはまるで違っていた。巻物ではない。本でもない。結晶化した時間の巨大な板――その表面は言葉で覆われ、無限の周期で書かれては書き替えられ、文章が透明な媒質の上を水のように流れていく。広間そのものが息を潜めているようだった。音はない。動きもない。空気でさえ重く感じられ、この空間が「変化」という概念そのものを拒んでいるかのようだった。
エララは肋骨の内側で心臓が暴れるのを感じながら近づいた。「見せて」沈黙の中で声がひび割れた。「隠しているものを見せて」
表面の文字が止まった。それから、兵士が隊列を組み直すように、文字が並び替わりはじめた。ヴェラムが彼女に応じている。彼女の時間的な性質――借り物の時間、盗まれた瞬間――を認識したのだ。そこに、同族めいた腐敗を見て取った。
*おまえは負債の刻印を携えている。*
彼女は身を強張らせた。「自分が何を背負っているかは分かってる」両手が体の脇で拳を結んだ。「玉座を見せて。神々に何が起きたのかを見せて」
文字がうねった。一瞬、何も定まらない。だがやがて、一節が浮かび上がった。光を投げない冷たい火で輝き、なのに容赦なく彼女の視界へ焼き付く。
*起源の盟約:神々の一団は玉座を、神的意識の貯蔵庫として鍛え上げた。神々の集合意志を通す器として。しかし、その器には器自身の意志があった。飢えていた。*
読みながら、エララの手が震えた。口の中に銅の味が広がる――いや、銅じゃない。灰だ。焼け落ちた未来の灰。
*最初に座したのは、境界の神コルヴェス。*
「そんな」止める間もなく言葉が漏れ...